幸せは自分で来てくれない2【具体的に】

父は殊の外上機嫌で「ココに座れ」と茶の間に私を座らせました。
そして大きめの封筒を出し「これを見なさい」と言います。
私は恐る恐るそれを受け取り、中を見ました。
「なにこれ!お見合い写真じゃないの!」
「そうだ、私の知り合いに声をかけていたら、アナタのお嬢さんならば安心だとこうして世話をしてくれた。」
父は得意げにそう話します。
「いいから見なさい。」
そう促されその硬い表紙を開けると、一人の神経質そうな男性が写っている写真です。
私より一回りほど年上に見受けられます。
「初婚ではないのだがな、前の奥さんは大変不埒な人間だったので離婚したのだそうだ。
この人物の原因ではないんだよ。」
私はその話しに不自然さを感じて「それを本人がおっしゃったの?」と訊くと父は「そうだよ。本人が離婚原因をそのように正直に話してくれた。」と答えました。
父がもうすでにその人に会っているというのも実に不愉快ですが、それはいいとしても離婚原因を相手のせいばかりにしているその人が、それ以上に不愉快に感じました。
そしてそこになんとも感じない父の、男尊女卑に似た考え方にも碧々したのです。

「私、嫌よ、こんな人」
お見合い写真をパタンと閉じてテーブルに置くと、私はそう言いました。
「何を寝惚けたことを言っているのだ!」
父は声を荒立て、その声に気づいた母がやってきて「わたしもね、初婚じゃない人をはじめに持ってくるなんて馬鹿にしてるって思ったのよ。アナタが可哀想。。。」そう間に入ってくれました。
「お前は黙っておけ!
30すぎた女の商品価値なんか、下がる一方なんだぞ。解ってるのか!」
「お父さん!それはあなたの考え方がおかしいです!」
母が珍しく大きな声を上げました。

退職間近でリストラされた父は、母に対してすこし弱くなってはいるのです。
母は正看の免許を持つ人でしたからそれまではパートで甘んじていた仕事を、父のリストラを契機にまたフルタイムで働くようになっていました。
父が父の権威を振りかざす相手は、この私しか居なくなっていたのです。
「誰のお陰で生活している!」
そう言えなくなった父は、どうやって失墜した権威を取り戻そうかと必死です。
それが私の結婚話ではあったのでしょう。
腹を立てた父は、自分部屋に入ってしまいました。

その姿にため息を付いて母は「ごめんね」と言ってくれました。
「あなたね、結婚したくないのかな?それともしたいのかな?」
そうお茶を入れ直しながら、私に訊きました。
「結婚そろそろ考えなきゃとは思っているの。
子供も欲しいのよ。」
「でも、お相手見付ける暇もなくなっちゃったものね、あなたのポジションじゃ。。。」
「気を悪くしないでちょうだいよ。。。」と言いながら母は、「結婚相談所ってあるじゃない?」と話し始めました。
「そういうものに登録してみたらって、母さん思うのよ。
アナタみたいに忙しくてそういう暇もない。。。そんな世の中の男性、たくさん居るはずよ。
あなただって母さんから見れば美人でいい子なのに、出会いがないでしょ?
職場も女の人が多いものね」

母の話はもっともなのです。                                                    
女の私でさえ、仕事をすれば暇はなくなります。
やりたい仕事であれば尚の事。
それでも好きでやってることですから遣り続けているのですが、婚活ということでは不向きです。
「どっちを取るか」といわれて「両方!」と言うのは贅沢な気がして、半ば諦めているだけの話。
そういうふうに思っているのは、私だけではないかもしれません。
「それもひとつ手かな?」と母を見ると、「母さんはそう思うわよ。。。」母が優しく微笑みました。
「母さんね、【自分貯金】も出来たのよ。私が出してあげるわ、入会金。
あなたの婚活始動のハナムケね!」
次の日、まだ不機嫌でいる父を尻目に、母と私は結婚相談所へ入会申し込みをしに行きました。
これが私の婚活の始まりです。

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